GWの剱尾根

2024/5/2-5/4
【メンバー】(L)Y.W (記)Y.T
【行程】
●2024/5/2
0500 馬場島-0930早月小屋-1300中休止-1530劔岳山頂-1730三ノ窓
●2024/5/3
0500三ノ窓-0530R10-0545コルE-0630最初の岩場-0800二峰-0900コルC
1030門-1300ドーム-1700長次郎ノ頭-1800三ノ窓
●2024/5/4
0700三ノ窓-0745池ノ谷二股-0845小窓尾根乗越-1000白荻川渡渉-1115土木作業場-1200馬場島

【記録】
年始より例年とは異なる気候となっており、2月は暖かく、3月は寒かった。また、雪がたくさん降ったかと思いきや降雨、快晴の日が入り乱れ、晩冬にGWの行き先を検討した際には雪の状態に期待をもてなかった。
どこに行くか悩んだ挙げ句、雪が降ろうが降るまいがコンディションに大差がないであろう劔尾根となった。
馬場島を起点とした場合、天候によっては白荻川の渡渉が困難となる可能性があったため、富山県警には室堂から劔岳を越えて池ノ谷を下り剱尾根に取り付く計画と、馬場島から早月尾根を経て劔岳を越え、同様に池ノ谷を下って取り付く計画の2パターンを提出していた。

2024/5/1
天気予報によると5/1は少し雨が降るものの、2,3,4,5と快晴が続くこととなっていた。そのため渡渉に問題なしと判断し馬場島起点の計画を採用した。室堂起点の計画は中止とする旨を富山県警に伝えた上で荻窪駅を4/30の20時に発。
翌1時前には馬場島手前のコンビニに到着した。小雨が降っているが、予報によると2,3時間で止むこととなっていたため、4時ごろに出発することとした。
仮眠後馬場島へ向かうも雲行き怪しく、着いた頃にはすっかり雨となった。初日は早月小屋までだし止むまで待とう、と言うことで車内で再度仮眠をとる。そして8時になったが、雨はまだ止まない。予報では晴れの日が続くので一日遅らせても問題ないが中々決断できず、馬場島派出所に天気の見立てを聞いて決めようということで出勤を待った。
しかし8時半になっても開かないため我々もようやく一日遅らせる決心をして下山。富山県警に計画変更の連絡をして、富山県のおいしい寿司をいただき、北陸サウナの聖地スパ・アルプスにて英気を養った。何も成し遂げていないのに贅沢する罪悪感は、先に打ち上げしてるだけ、という言葉で乗り越えた。

2024/5/2
スパ・アルプスでたっぷり眠り1時に発。仮眠室もあり良いところだったのでオススメしたい。
馬場島へ着くと再びの雨。天気予報では快晴ということになっているため再度待つが、5時になっても止まない。昨日の記憶が蘇る。計画変更により本日は三ノ窓を目的地としていたこともあり、これ以上待つことはできない。雨の中出発した。

霧雨の中のスタート

歩き出すとすぐにかの有名な試練と憧れの石碑が現れた。嬉々として写真を撮ろうとすると、Wさんに「それやるの帰りだから」と突っ込まれたのでこっそり撮った。帰りは堂々と撮ろう。
早月尾根を登り始めてしばらくは霧雨だったが、高度1800mあたりから空が開け始めた。早月小屋に着く頃には完全に晴れ、眼下には雲海が広がっていた。GWだというのに小屋にはテントが一張もなく、昨年とは大違いだとWさん。
今回の山行を通して出会ったのは2PTのみ。みんなどこへ行ったんだろう、と話しつつ早月小屋にて小休止。

雲海と早月小屋

雲海と早月小屋

雲の上に出てからは暑さとの戦いだった。自分は早々に水涸れしてしまい、足元を掘っては比較的きれいな雪を掻き出して口に含みんでなんとか水分補給していた。Wさんも珍しく疲れている様だ。
全荷の負担、快晴の熱気、そして高度2500mの空気の薄さに我々は限界を迎え、1時間ほど休むことにした。水を作り、藪の中で仮眠を取る。行動再開は14時頃となったが、これによってだいぶ回復した。ここで休憩を取らなければ三ノ窓への道半ばで力尽きて幕営となっていたかもしれない。

中休止

中休止

雪を登り、酸欠による頭痛で立ち止まり、息を落ち着かせてまた登る。そんなことを何度か繰り返しているうちに劔岳の山頂についた。今回の計画ではただの通過点に過ぎないのだが、ずっと歩きたかった道ということもあり達成感に包まれる。
ここで写真を取りながらまた一休み。時刻は15時半過ぎ。三ノ窓まではなんとか進めそうだ。

剣岳山頂

剣岳山頂

その後の北方稜線は悪かった。長次郎ノ頭に始まり、アップダウンの連続で非常に疲れる。一度、雪面の切れ目をトラバース跡と誤認して進んでしまい、とんでもない急斜面を横切ることとなってしまった。
非常に怖い思いをしたが、疲れているときほど安易に楽をしようとしてはいけない、と良い教訓になった。

恐怖のトラバース

恐怖のトラバース

しばらく進むと窓ノ王が現れた。この手前から雪渓を下れば、今夜のお宿、三ノ窓はもうすぐだ。しかしこの雪渓がまたとても長く、ここまでの行程で疲弊しきった自分の体には非常に堪えた。
ちなみにWさんは早月尾根での休憩以降かなり回復したようで、北方稜線に入ってからはずっと先行してくれていた。雪渓の下降時も前を進み、ここにフィックスあったから休めるよ、など声掛けしてくれ心強い。
雪渓の途中でトラバースし窓ノ王の基部を超えると快適なテン場が現れた。17時45分頃、やっと三ノ窓に着いた。夕日に照らされる富山市と日本海がとても美しい。
水を張り始めた田んぼに日の光が反射し、市内まで海が続いているようだった。ここまで歩いたかいがあったな、と思う。

三ノ窓の夕日

三ノ窓の夕日

テントを設営し、明日の本番に向けてこの日はとにかく飯を食って水を飲んだ。おそらく2Lくらい水を飲み、酒も飲まずに就寝。明日は3時15分に起きることにした。

 

2024/5/3
3時45分頃起床。若干寝坊したが想定の範囲内である。昨晩あれだけ水を飲んだにもかかわらず夜中にトイレに起きることもなかった。相当消耗、疲弊していたのだろう。時間的に問題なければ劔尾根の上部も行こう、という計画だったので、いそいそと準備をしてなんとか5時に歩き出した。
池ノ谷をさっさと下って30分ほどでR10に着いた。途中R4を見かけたが、氷は無い様だった。R10から15分ほどかけて雪渓を登って尾根に乗った。いよいよ劔尾根が始まる。しばらく藪漕ぎをすると最初の岩場についた。
リードで取り付くWさんは、なんかやたら怖いなー、とつぶやきながらどんどん登っていき、すぐに自分の番となる。登り始めると、一箇所だけ悪く、薄いホールドを掴んでハイステップをして乗り込まないといけないところがあった。登ってしまえばなんてことはないのだが、初っ端ということでやはり少し怖かった。

最初の岩場

最初の岩場

岩場を越え、少しの藪漕ぎをすると視界が一気に開けて門が見えた。青空にずっしりと構える姿は迫力がある。あんなの登るのか、と思いながらすぐにⅡ峰へ到達する。
Ⅱ峰の出だしは凹角状となっていて、手も足もたくさんあった。我々はロープを出さずに超えたが、凹角への移り込みは少し難しかったのでロープを出しても良いかもしれない。凹角を超え、Ⅱ峰を左から回り込んで越えると、すぐにコルCに着いた。
交代で今度は自分がリードする。アブミをがっつり使うのは初めてだったので少し緊張する。取り付きまで進み離陸に戸惑いモジモジしていると、ビレイしているWさんが取り付きのかなり左にリングボルトとスリングがあるのを見つけた。トラバースして見に行ってみると、奥は草付となっており、ここからも登ることができそうだった。どうする?行っちゃう?と相談するも、左から簡単に抜けられるのであればこのピッチが何年もアブミで登られるわけがない、ということで正規のルートを進むことにした。
気を取り直してアブミのピッチを始める。といっても、アブミをかけては乗り込み、次のアブミをかけては乗り込む、ということを繰り返すだけではあった。高度感と浮遊感はものすごいのでスリルはあったけれども、技術的にはそこまで難しくないんだな、という印象だった。アブミゾーンを抜け小さなテラスで一息ついたら、左上のカンテ目掛けて登る。カンテを少し登ると大きなテラスが現れ、ここでピッチを切る。

コルC中間部

コルC中間部

そしてWさんの戦いが始まった。アブミはパーティとして1セットだけ用意しており、自分が持っている。だから、Wさんはアブミ無しで進む必要がある。姿は全く見えないが、うめき声と雄叫びが聞こえてきた。テンションがかからないのが不思議なくらいだが、しばらくすると声も止み、Wさんはテラスへ上がってきた。「これはドラツーだった」という感想をいただいた。無事に超えられて何よりです。
テラスから左下を見下ろすと草付の斜面となっている。もしかすると、コルC取り付きの左にあったリングボルト先の草付を直登するとこのテラスに着くのかもしれない。もしも機会があれば試してみたい。
コルCのあと、すぐに門と対面する。間近で見ると威圧感がある。リードをどちらがやるかジャンケンで決め、勝った自分がリードをすることとなった。ぱっと見は難しそうだ。門のクラックに氷はなくドライだった。我々はアイゼンで登ったが、クライミングシューズを持ってくればだいぶ楽に登れるのではなかろうか。

門

向かって右側の窪みから取り付くことにする。大きなフレークを掴み、窪みに向かって立ち上がる。少し姿勢は悪いが手はガバなので難なく乗り込めた。そこから上部に残置が下がっていたので、手を伸ばしたら届いた。ハーケンもボルトもないのにどうやって付けているのだろうと思っていたが、手で探ると岩自体に穴が空いており、そこにスリングを通しているようだった。この残置を取ったあとはだいぶ簡単になった。
残置が頑丈であることを確認し、体重を預けてハイステップで一段体を上げたら、フレアした水平クラックにジャミングを決めながら門の抜け口へとトラバースしていく。一瞬少しバランスが崩れ、重心が壁から離れそうになりヒヤリとしたが、ジャミングがしっかりと効いていたので問題はなかった。クラックも嗜んでいて本当に良かった。
ほとんど落ちる気はしないが、プロテクションを取れる箇所が意外とない。少し進めばあるだろう、と思ってちょろちょろ進むうちにだいぶランナウトしてしまっていた。また、門を上がりきったテラスでピッチを切れば良いものを、欲張って先まで伸ばそうとしてしまった。結果ロープが足りなくなり、テラスから一段上がったスラブの上というとても中途半端な位置でピッチを切ることとなり反省。とはいえ、ひとまず核心は抜けた。
フォローのWさんを迎え、門を抜けた少し先でドームに登ると、コルBと劔尾根の上半分が見えた。時刻は13時過ぎ。天気は快晴。どうする?とWさんと顔を見合わせる。
「コルBから降りて三ノ窓で夕日を見ながら乾杯したい」とWさん。とても魅力的な提案だ。是非そうしたいと思ったが、一応は上まで抜ける計画を出したにもかかわらず、初日に寿司を食い、今朝は寝坊してるのに、このままコルBから降りたらなんともしまらない思い出になってしまわないだろうか。そうは口に出さなかったが、登りたい様な雰囲気を出しつつモゴモゴしていたらなんとなく登ろうという話になった。三ノ窓からの夕日とビールは諦めねばなるまいが、腹をくくって頑張ることとなって良かったと今も思う。

上半分の序盤

上半分の序盤

次の写真の撮影時刻は13時40分で、上半分を始めてすぐのところから撮ったものだから、結構長いこと悩んでいたことになる。そして下半分と比べると、上半分は平凡だった。ロープも出さずに進めるような易しい尾根が大半を占めた。我々はロープを出していたが、大部分はコンテで進みかなりの距離を稼いだ。
一番悪かったのは剱尾根の頭のすぐ先から長次郎の頭に登るところだった。浮き石が酷く、リードしていたWさんが触れたそばからガラガラと崩れ落ちる。そんなこんなで長次郎の頭を登りあげたのは17時頃だった。振り返って思うと、本当に雪が少なかった。コルには少しあったな、という程度の記憶で、ほとんど印象に残っていない。
ここで小休止しつつ剱尾根完登の記念撮影をした。日は傾き始めていたが、もしかしたら夕日を眺めて乾杯できるかもしれない。日没が迫る中三ノ窓へと北方稜線を急いだ。

長次郎の頭へ

長次郎の頭へ

テントへ着いたとき、ギリギリ日は沈んでいなかった。これは乾杯いけるか、と思った矢先、Wさんからテントが海!とよくわからないコメントをもらった。見ると、今朝テントを畳んだあと、風で飛ばないようにと上に乗せた雪入り土嚢袋の雪が溶けてテントを水浸しにしていた。よく考えたら確かにそうだよな〜溶けるよな〜と思いながら、慌ててテントをひっくり返して水を掻き出す。そうこうしているうちに日は沈んでしまった。まあ、どうせあとは帰るだけだ。三ノ窓を吹き抜ける風ですっかり乾いたテントの中、遅くまで飲んで余韻に浸った。

2024/5/4
ゆっくり起床し、撤収をしていると1パーティ上がってきた。チンネに行くというので、情報交換。池ノ谷ゴルジュはやはり巻かないといけないようだ。撤収完了後、池ノ谷を下り始める。
昨日もR10まで通った池ノ谷だが、改めて異様な風景だと思う。こんなにデカい谷いっぱいに雪が敷き詰められ、富山湾に向かって真っすぐに伸びている。後ほど町から見上げることになったが、あんな急なところを下ったのかと驚いた。

池ノ谷二俣付近

池ノ谷二俣付近

中々味わえない絶景を楽しみながら、ほとんど落ちるようなスピードで雪渓を下り、あっという間に池ノ谷ゴルジュの手前まで到達。巻道にはフィックスロープがあるという話を仕入れていたので探してみると、斜面を少し上ったところに土と同じ色のロープが張られていた。
ここから足元の非常に悪い小窓尾根を越え、白荻川に着いたところで渡渉点を探した。今朝の情報では、飛び石で渡れるよ、ということだったが、10時頃に到達した際にはおそらく雪が溶け始めた影響で増水していた。濡れずに渡ることは不可能、また裸足での徒渉も危険と判断し、覚悟を決めて冬靴で水の中に突っ込み強引に進んだ。水に触れると、沢が待ち遠しい。

白荻川

白荻川

白荻川の渡渉後しばらくするとまた尾根に上がり巻道に入ることになる。白荻川に入る枝沢を途中まで詰め上がると、横からきれいな登山道が入ってきており明瞭だった。巻道の最後は落石防止のワイヤーネットを掴んで下り、土木作業場のど真ん中に出た。本日も快晴、風が非常に気持ち良い。林道を1時間ほど歩いて馬場島へ到着。再び出会った試練と憧れの石碑を今度は存分に眺め、最後の記念撮影をした。
雨に始まり、日に焼かれ、テントに海はできたが、やり残しは無い。天気に恵まれたこともあり、シーズンの締めくくりとして最高に充実した山行だった。

試練と憧れ

試練と憧れ

 

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